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  • 執筆者の写真桑原

TRIZを体系化したアルトシュラーははじめ何を考えていたのか? (超発明術TRIZシリーズ1:入門編「原理と概念による全体像」)

社会活動が減少した現在、企業活動も最低限に絞られているように感じます。

企業の人材教育に関しての費用と時間が削られている中、企業主導ではなく個人主導での学びの場が「オンライン」というツールの普及で広がってきたようにも感じます。

これからは自分で探して学ぶという姿勢を持っている人とそうでない人とで大きな差が付くような予感がしているところです。 さて、私は約20年前にTRIZ(発明的問題解決理論)に出会い、それを使った問題解決のためのアイデア創出のお手伝いをしています。

TRIZが日本に紹介されたのは1996年。それからしばらくはTRIZを学ぶための参考になる本は日経BP社出版の「超発明術TRIZシリーズ」しかありませんでした。

特にシリーズ5作目「思想編:創造的問題解決の極意」は、この仕事を始めたころにTRIZについての知識を学ぶためにむさぼるように読んだ本です。

ただそもそもがロシア語で書かれた本を英語や日本に翻訳されたものですから、なかなか手ごわい表現が多い(汗)

オンラインでのセミナー開催も必要なのですが、これから(アフターコロナ)の自分の仕事について棚卸をする時間も大切だという事で、それらの本の中の原点と言うべきシリーズ1作目「入門編:原理と概念に見る全体像」を改めて読み返してみました。

この本が日本で紹介されたTRIZの解説書としては古い本です。

TRIZを学び始めたころに読んで「???」だったことを思いました。

今現在は廃盤になっており、amazonでは中古本が一冊だけありました。 著者はTRIZの創始者である「ゲンリック・アルトシュラー」です。

これを遠藤敬一さんと高田孝夫さんが日本語訳しています。髙田さんはすでに故人なので紹介が無いのですが、遠藤さんは「元日ソ通信社 代表取締役」という肩書でした。


本の内容は大きく2つに分けることができます。

前半はアルトシュラーが特許の分析の結果思い至った創造に関する技術の解説で、後半はその時代の技術システムの問題解決に自分達が考えたことを適用した事例解説です。

この本は、アルトシュラーが特許を分析した結果「誰でもが発明家になるための方法」を考えたとしてとても重要な位置を占めているようです。


この時代の発明の方法は、「試行錯誤法」でした。

いや、今も多くの場合は試行錯誤法で問題解決しているのではないでしょうか?

試行錯誤法とは、自分が持っている問題を解決するための探求は「ほとんどあてずっぽう」に行われるというものです。

「『もしこうするならば』というアイデアが生まれ、それらの検証が行われる。一つのアイデアが不首尾に終わると第2第3…のアイデアが考えだされた…。」(P.13)

確かに私たちが何らかの問題を解決するために考える時は、多くの場合「あてずっぽう」に考える事が多いようにも感じます。

そうすると問題解決に多くの時間とお金がかかります。

その後、ロシア(その頃はソ連)では、「補正法」という思考法が開発されました。

補正法とは「許容しえないものを許容し、あとでこれを修正する」(P.21)という考え方だそうです。

あれやこれやとアイデアをあてずっぽうに出して検証を繰り返すのではなく、その問題を解決するためのメカニズム(手段)を、一つ一つ改善修正しながら解決に向かうというものです。

ただ、これはまだ解決されていない最新技術には力不足であると書かれています。確かに、未知の技術問題を解決するために、発想を飛躍させるには難しいように感じますね。

1953年にアメリカのオズボーンもこの「試行錯誤法」を改良しようと思い立ちました。 彼は、「問題解決の際、素晴らしいアイデアを生み出すことは得意だが、分析のやり方は苦手な人がいる。一方で、逆に創造よりもアイデアの批判的分析に優れた能力を発揮する人もいる。」事に気づきました。(P.24)

彼は試行錯誤法を「無秩序な探求」と呼びます。無秩序な探求はそれらの慣性ベクトルが優先的に傾くことが無いので時間がかかったり結果的にうまくいかない事が多いのです。



ブレインストーミングも決して「無秩序な探求」を否定するものではありませんが、その無秩序を「量的方法で修正する」ところに特徴があると言われます。

つまり、1人が50日かけて処理する仕事よりも50人が1日かけて処理する仕事の方が良い結果につながるという事です。(本の中では逆説的に記載されていますので、桑原の解釈を加えました。)

これを正しく機能させるためには、「慣性ベクトル」の方向で見通しが暗い試行を捨てる事によってはじめて得られそうです。 多くの人が色々な能力(多様性)を発揮して、その問題をやっつけるイメージです。一気に議論することで生まれる発想のスピードと連鎖で、あまり筋が良くなさそうな方向に考えるのを止めることで、ブレインストーミングは成功につながるのです。




その後はなかなか発明法についての新しいやり方が発表されなかったのですが、アルトシュラーは「実用的で高能率の発明問題解決理論(TRIZ)は実は精緻に組み立てられている。」(P.29 )と大胆な主張をします。

発明の分析によると「発明的思考の基礎をなす共通の原理存在し、その数は数十にまとめられる」というのです。(P.33)

また、「創造を特徴づけるのはひらめきやインスピレーションではなく研究の成果である。何か新しいものが作られるのであればそれがすなわち創造的研究であり、『試行錯誤の数』とは無関係である。」(P.35)とも言っています。

そこで疑問になるのは、「発明的思考の基礎となる共通の原理とは何か?」という事です。 多分アルトシュラーはTRIZでもっとも有名な40の発明原理を想定したのではないかと思うのですが、それを具体的に示すものはまだ出てきません。

しかし、発明をする時には課題の設定が重要であるという事で、「理想機械」を考える事が探求角度を絞るために役に立つとしています。探求角度が絞られるとは発明課題が公式化されるという事です。(P.40)

「理想機械」はTRIZではとても重要な概念です。

「目的機能は実現されるが機械は存在しない」で、「機械は目的を遂行する手段であり、本来は目的だけが達成されるのが理想である」という考え方です。(P.43)

その理想機械を定義する事で、発明課題の解決へ向けた探索角度を絞ることができるというのです。


これはさらに「先入観(TRIZでは心理的惰性と言う)の打破」にもつながります。

ほとんど多くの発明課題のテーマは「・・・・するところの装置を作れ」という言葉になっています。実は装置が欲しいのではなく、「機能」が欲しいのです。そこに対する先入観や思い込みが強いと、発明課題の解決にはつながらないという理解です。

「理想機械」と並んで発明問題解決理論のもう一つの柱は「技術的矛盾」です。

「矛盾の発生と克服は技術進化の主たる特徴の一つであり」(P.49)「発明には技術的矛盾を除去する作業がかならず伴う」としています。

技術的矛盾とは「ある問題を解決しようとすると別の問題が発生する」ということなので、技術システムを設計する時にはほとんど当たり前の概念です。

私は「掃除機の吸引力をあげると、余計なものまであれこれ吸い込んでしまって取扱いにくくなる」という例を挙げたりします。

本では炭鉱での鉱坑のガス抜きやエンジン製作、化学技術や造船などの技術的矛盾を例として挙げて読者の理解を深めています。(すこし古いですが…当たり前ですね…)

この「理想機械」と「技術的矛盾」の2つの柱をもとに、後半は「発明の弁証法」としてのプロセスを解説しています。 後半は、また別の機会に書きます。

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